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2 ジュゴンとは?

〜別名〜

 沖縄の言葉で「ザン、ザンノイオ、アカンガユー」といい、英語で「Dugong、 Sea Cow(海の牛)」、漢字では「儒艮」と書きます。

〜形態、習性〜

 姿はクジラやイルカに似ています。前足が胸ビレに変化していたり、後足が退化していたり、尾ビレが水平方向に広がっていたりするところです。(魚の尾ビレは垂直方向に広がっています)しかし、背ビレはありません。また、イルカのようにスマートではなく、肥満型です。

 ホ乳綱ですから、子供も卵ではなく胎児で産み落としますし、体温も一定です。 一生を海で過ごすホ乳綱には、海牛目、鯨目、食肉目・キ脚亜目(アシカ)、食肉目・レッ脚亜目(ラッコ)の4種類がいますが、この中で完全草食獣であるのは海牛目だけです。これは動物学上とても貴重な事実です。

〜性質〜

 性質は温和でおとなしく、他の動物を攻撃する武器を持っていません。牙(ただしマナティーやステラーカイギュウにはありません)は、攻撃用にも身を守るためにも役に立たず、敵に会っても逃げるのみです。もっとも、成長した海牛目には特に敵はおらず、大型のサメ、シャチ、ウミヘビ、そして人間くらいのもの。

 また仲間同士のきずなが深く、一頭が傷つくと助け合います。これはジュゴン、マナティー、ステラーカイギュウ、いづれでも観察された記録があります。

〜先祖〜

 ジュゴンは「海牛目」というグループに分類されていますが、牛とはずいぶん違う生き物で、意外にもゾウに近い動物です。共通の祖先はデスモスチルスやパレオパラドキシアという、カバのような4本足の陸上動物だったみたいです。それが約7000〜5000万年前、敵から逃げるために海へ生活の場を広げたようで、それが海牛目へ進化したのです。鯨目が獲物を追って海へ生活の場を広げていったのと、ずいぶん事情が違いますね。生存競争において積極姿勢の鯨目は、世界中の海へ分布しました。しかし海牛目は、消極姿勢であるのと、海岸近くの海藻を食べて生きているという理由から、陸地より遠く離れないで水中生活をするようになりました。

 海牛目の先祖の化石が、日本の地層からも発見されています。ヤマガタダイカイギュウは1978年8月上旬に山形県で、タキカワカイギュウは1980年8月10日に北海道・滝川市で発見されました。大昔の日本は、海牛目の楽園だったかもしれません。

〜文献、伝説〜

 さて、人間の書いた本に初めて海牛目が登場するのは、古代ローマ時代の「博物誌」(プリニウス著、西暦77年)で、マナティーと思われる動物についての説明があります。また、有名なコロンブスの1493年1月9日の航海日誌にも、マナティーの目撃記録があります。

 この時代には、マナティーという動物とは別に、人魚という動物が存在していると考えられていました。「海には人魚という生き物がおり、体半分は人間で、もう半分は魚である」という伝説は世界中にあり、沖縄にもたくさん残っています。例えば、津波を予言して人間を助けた話。また、人間を死へ導こうとしたため、人魚との関わり合いを避けるよう戒めた話。

 人魚伝説のモデルは、東洋ではジュゴン、西洋ではマナティーというのが定説ですが、その他にも、イルカやウミガメやエイとする説もあります。これは恐らく、大航海時代の船乗り達が、長い間女性とセックスできない状況下で、動物のメスの性器をその代用としたことが起源なのでしょう。特に温和な海牛目は、安全な代用品だったのかもしれません。

 また、人魚のミイラが滋賀県の寺に残されていますが、これは特殊な技術で作られた魚とサル(または人間の幼児か?)の合成品らしいのです。その昔、見せ物用として作られたものでしょう。その他にも、「もうすぐ地震や嵐がやって来ると、人魚様のお告げがあった」などとウソをついて御利益のお札を売っていたイカサマ師たちが、証拠品として人魚のミイラを利用したらしいです。

 ところで、ジュゴンやマナティーが、子供にお乳を与えるときの様子が人間のようであることから、人魚のモデルと言われていますが、その様な授乳行為は確認されていません。

 人魚伝説の主人公としてではなく、動物としてのジュゴンが日本で最初に本に登場するのは、ドイツ人・ブロムメの書いた「動物学」の日本語訳が出版された  1875(明治8)年です。そうして明治の末期ごろに、「人魚=ジュゴン」が日本人の間に定着しました。

ジュゴンの分布(世界)

〜分布〜

 上の図は、ジュゴンの住む海とその頭数を記した地図です。水温20〜30℃の熱帯・亜熱帯の浅い海に住んでおり、世界に10万頭以上いると考えられています。その内訳は次の通りです。(ちなみに沖縄市の人口は約 11万6000人、  市・  区の人口は約 万  人です)

  オーストラリア近海               約 83000頭

  アラビア半島近海                約 7000頭

  インド洋〜東南アジア〜メラネシア〜沖縄の一帯  約 15000頭

 日本の奄美大島が分布の北限で、沖縄の海では昔から時々人間の目に触れていました。琉球王朝時代には、ジュゴンは八重山諸島で「年貢」として捕獲されていたくらいです。

 普通は人間の前にめったに姿を現さない動物なので、分布している国の人でさえ、なかなか野生のジュゴンは見られないのが実状です。日本では鳥羽水族館がジュゴンの長期飼育に成功しています。ここでジュゴンを見た人は、延べ2800万人   (1994年現在)。日本人は世界で最も多くジュゴンに接した国民でしょう。

〜食事〜

 極端な偏食で、限られた海藻(アマモやアジモ類)しか食べません。

 よく食べる動物で、1日に体重の10%(30キロくらい)、多い時で16%を食べます。野生のジュゴンは、1日の多くを食事に費やしているようです。鳥羽水族館では韓国からアマモを空輸していますが、1頭が1日に30キロ食べるとして、1年間で1800万円、2頭で3600万円もかかってしまいます。

 レタスやニンジンも食べるマナティーに比べて、ジュゴンは餌づけが難しく、水族館で飼育するのは大変なのです。

 このような訳で、野生のジュゴンはエサの海藻が無くなれば、死ぬしかありません。鳥羽水族館の企画室長をつとめる中村元(はじめ)さんは、その著書「人魚の微熱」(パロル舎、1998年)の中で、こう言います。

「逆に言えば、ジュゴンを絶滅させるなら、その狭い海草の茂る場所を破 壊してしまえばいい。……それはとても簡単なことではないか?それほど 海牛類というのは弱く、限られた場所にしか生息しない動物なのだ」(P.43)

 海藻は光合成をするので「太陽の光」と「海水の透明さ」、その他にも「陸からの栄養分」が必要です。海藻はジュゴンのエサになるだけでなく、海藻の出す酸素が魚たちにとって良い環境を作り出し、サンゴ礁の豊かさにつながってもいます。 現在、沖縄本島で海藻が繁殖しているのは、海岸線の約10%程度で、その数少ない場所の一つ、名護市・辺野古に、アメリカ軍の巨大な海上へリポート基地を作ろうとしているのです。

 また、ジュゴンが海藻を食べる時は地下茎まで食べるので、葉っぱだけ食べるウミガメの食べ跡とは区別がつきやすいのです。ジュゴンの食べた跡はひと筋の砂地になっていて、「ジュゴン・トレンチ」と呼ばれ、ジュゴンの生息の証拠となります。呼吸をするため水面へ上がらねばなりませんから、ジュゴン・トレンチひと筋分(1〜3メートル)がひと呼吸の長さを意味します。

〜一日の行動〜

 野生のジュゴンの一日は、「エサ探し、食事、休息、睡眠」です。夜行性という訳ではありませんが、人間のいない時や干潮の時を見計らって藻場に現れ食事をするようなので、昼間はサンゴ礁の外側のやや深い海域に潜んでいることが多いようです。10メートル以上は潜れないようなので、それより深い海域へは行きません。

〜一年の行動〜

 野生のジュゴンは、回遊性のもの(季節ごとに移動する)と、定着性のもの(一生同じ海域に住む)との2種類がいるようですが、詳しいことは謎です。オーストラリアのジュゴンは、夏と冬の間に160キロほど移動することが観察されています。

〜群れの大きさ〜

 普段は単独または夫婦で行動し、5〜6頭の時もあります。時に、500頭以上 (オーストラリア東部)、600頭以上(アラビア湾)の報告もあります。フィリピンでのある報告によりますと、単独行動以外のジュゴンは、すべて母系家族を中心とした群れだったそうです。

〜生殖活動〜

  ジュゴンの寿命は平均50年(最長で70年)で、性的に成熟するのは8〜10年です。水中で交尾をし、水中で出産をします。魚ではないので卵ではなく胎児で生み、生まれた子供はすぐに泳ぎ始めます。真っ先に水面へ上がり、最初の肺呼吸をしなければ死ぬことになります。時に泳ぎの下手な子供を助けるため、母親ジュゴンが頭でつついて水面へ押し上げる姿が見られます。

 一度の出産で1頭、まれに双子を生みます。子育ては約18ヶ月です。

 1頭のメスが一生に生む子供の数は5〜6頭で、少産少死型。少なく生んで大切に育てるので、保護のしかたによっては、今後生息数が増える可能性も残されていますが、乳離れするまでに子供の約1/3が死ぬようなので、安心はできません。

 繁殖期は、その地域の気候によって、あるものとないものがあるようです。オーストラリアのジュゴンは1年に一度、9〜12月に集団で集まって、集中的に交尾するようです。飼育のジュゴンは一年中交尾をします。

 なお、ジュゴンの性周期は約50日で、人間(約28日)の2倍です。

ジュゴンの分布(沖縄)
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