5 ジュゴンの仲間〜ステラーカイギュウ〜体長7〜9メートル、体重4000キロ、シベリアとアラスカの間にあるベーリング海近辺にのみ住んでいた、ジュゴン科カイギュウ属の動物です。 1689年に即位したロシアのピュートル大帝、彼が派遣した極東探検隊によって、1741年に発見され、わずか27年後の1768年には絶滅してしまいました。ヨーロッパからきたラッコの毛皮商人たちの食料として現地調達されたり、面白半分に殺されたりしたためです。ステラーカイギュウ絶滅の悲劇が、今日の自然保護運動の出発点の一つですし、この教訓がジュゴンやマナティーの保護活動で繰り返し語られています。 発見当時、すでに数は少なかったようで、1500〜2000頭と考えられています。人間が手を下す前から、この平和的な動物は生存競争に負けつつあったと言えます。 他の海牛目とは違い、寒い海に住んでいたため、皮膚には防寒機能がありました。コンブを主食としていたようで、歯は退化していました。
〜マナティー〜欧米ではジュゴンよりもマナティーの方が身近な動物なので、英語の動物の本には、マナティーの記述が先に載っています。 海牛目マナティー科マナティー属には、3種と2亜種のマナティーがいます。 ┌アメリカマナティー(種)─┤ マナティー科──マナティー属─┼アマゾンマナティー(種) └カリビアンマナティー(亜種) └アフリカマナティー(種) 細かく動物を分類するのが好きな動物学者は、アメリカマナティーをさらに2つの亜種に分類しますが、そこまで細かくしなくても良いという動物学者もいます。
体の様子も習性も、だいたいジュゴンとよく似ていますが、次のような違いもあります。 マナティーの尾ビレはうちわ型で、食べる物には偏りがなく、野生ではホテイソウなどの水草、飼育のものはレタスや白菜やニンジンも食べます。しかし大食漢であるところは両方とも同じです。ジュゴンは海にしか住みませんが、マナティーは川と海を行き来します。また、ジュゴンの顔はややゾウに似ていますが、マナティーはブタに近いです。マナティーは胸ビレが長く、食べ物を両手で口へ運べますが、ジュゴンはできません。 以上をまとめたものが、上の表です。 〜マナティーの特徴〜夜行性の動物で、日中は水の底に潜んでいます。夕方から活動を始め、朝方に睡眠に入ります。 眠る時は水深3〜5メートルの所にいます。水生ホ乳綱は、眠っている間も息つぎをしなければなりませんから、私たち人間の眠りとは少し違うようです。半分寝ぼけて水面へ上がり、息をつぎ、また水面下へ戻ります。ちなみに、イルカは水深 50センチの所を漂いながら、ゆっくりと浮上してきて息をつぐそうです。水生ホ乳綱にとって、息をつぐため水面に出るのはとても危険な行為なので、できるだけ体を水の外に出さなくて済むよう、鼻の穴は頭の上に付いていることが多いです。 呼吸は5分に1回くらいです。血液中のヘモグロビンは人間より酸素供給能力が高く、マナティーの代謝率はホ乳綱中最も低い部類なんだそうです。これは、酸素消費量が少なくて済み、息つぎが少なくてすむ反面、体温を調節する力が低くなってしまう事を意味します。 マナティーは決まった生殖時期を持たないようです。大きな子を生み、その平均体重は30キロ。母親と新生児の体重比は、人間で4%、マナティーで10%です。子供が親離れするのに2年かかります。 母乳の脂肪分は20%と濃く、ドロッとしています。しかし水中でお乳をあげると拡散してしまいますので、そう考えると、これで普通なのかもしれません。人間は空気中でお乳を与えるので、マナティーほどドロッとしていなくても良いのでしょう。 マナティーは普通、単独生活をしますが、時に十数頭の群れになります。 マナティーの生息域は狭いです。これは食料(水草)と水温の事情によります。 ジュゴンの食料の海藻と同じく、水草も光合成をするので、水深の深い所には生えず、したがってマナティーも深い水域には住みません。水草が生い茂る水域は大変にごっており、コーラのような色をしています。透明度の低い水中で、マナティーは視力に頼らず、聴覚や鳴き声でコミュニケーションをとっているようです。 また、厚い皮膚を持っていますが防寒の役には立たず、水温が低くなると生きていけませんから、寒冷な気候の水域には住めません。 アメリカマナティーの研究は進んでいますが、アマゾンマナティーとアフリカマナティーはいまだ謎の多い動物です。 〜アメリカマナティー〜アメリカ・フロリダ半島の川や浅い海に住む亜種をフロリダマナティーといいます。カリブ海周辺の川や浅い海に住む亜種をカリビアンマナティーといい、別名を西インドマナティー、またはアンティリアンマナティーともいいます。 アメリカマナティーは季節によって大きく移動し、夏には海に、冬には寒さを避けて川や泉へさかのぼってきます。水温が20℃以下になると死んでしまいます。 フロリダマナティーの住むアメリカ・フロリダ州は、避寒地として世界有数のリゾート地です。レジャーボートが盛んに行き交い、そのスクリューに巻き込まれ、マナティーが皮膚をザックリと引き裂かれる事故がたくさん起こっています。この傷跡が、マナティーの個体識別に使われているのは皮肉な話です。現在、マナティー保護区が増えつつありますが、それでも毎年、百数十頭のマナティーの死体が発見されるのだそうです。他にも、水門にはさまれて死亡するケースが多いようです。なお、マナティーが多く住むクリスタル・リバー(Crystal River)での立入禁止区域の罰金は50ドルです。 また、水質汚染もマナティーの敵です。マイアミ大学・海洋学部の学生が、死んだマナティーから農薬や生活排水中の有害物質を見つけています。 アメリカ合衆国におけるマナティー保護に関する法律は、1972年の「海生ホ乳類保護法」、1973年の「絶滅の危機にひんする動物保護法」、1978年の「フロリダマナティー聖域法」があり、手厚く保護されています。 〜アマゾンマナティー〜南米・アマゾン川に住んでいて、海には住んでいません。 大食漢なので、ギニアやジョージタウンでは、マナティーを水路や運河の繁殖しすぎた水草の掃除屋として利用するユニークな試みもあります。 その一方、ブラジルは乾期が4〜6ヶ月間も続くため、アマゾンマナティーは食物の減るその時期を、厚い脂肪を用いて絶食し、耐えて過ごします。 アマゾンマナティーの肉は腐りにくく、熱帯地方では貴重な食物です。加えて、1935〜1954年の20年間に、ヨーロッパ人によって約20万頭が皮をとる目的で乱獲されました。このため、生息数は激減してしまいました。 〜アフリカマナティー〜西アフリカのセネガルからアンゴラにかけての川や浅い海に住んでいるようです。 フランス植民地時代の1930年代から、捕獲を禁止する厳しい取締りが続いています。が、そうだからこそ、密漁される時には、骨ひとつ残さずに始末されてしまうので、アフリカマナティーの調査や保護管理が難しくなっています。 |